松本明彦「EOS-1Ds」レビュー
 
 

 この1年間、EOS-1Dは本当に良く働いてくれた。8コマ/秒という派手なスペックばかり強調されるが、私にとっては通常の1ショット撮影時の、短い撮影間隔による快適な撮影レスポンスが、1Dの最大の魅力だった。
 ほとんどのデジタル一眼で、モデルの表情を追ってシャッターを切っているうちに、データの書き込みで、途中でシャッターが降りなくなると言う事を経験した。そう言った事が1Dでは全くなく、いい意味で、デジタルカメラを使っている事を忘れさせてくれるカメラだった。
 また1vと同等の質感、使い心地、防塵防滴性は、ユーザーの使用感、所有欲を満足させるものだった。そしてこの質感も、他のデジタル一眼では、決して得られるものではなかった。

 
 

「AERA 」02.12.30-'03.1.6号より 
撮影:松本明彦 着付け:鈴木陽規 
モデル:吉沼佳代子、東裕久、菅原雄介
衣装協力:今昔ながしま 門前仲町店 
撮影協力:目黒雅叙園

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 2002年暮れ「AERA」の撮影をした。編集部と打ち合わせをし「宝」と言うテーマで、モデルは着物を着て、目黒雅叙園で撮影する事になった。そこで撮影では初めてEOS-1Dsを使用する事にした。理由は、
1.着物の肌理、部屋の装飾のディティールを出したい。
2.大広間での撮影のため、十分な画角が欲しい。
3.掲載写真は、A3程度の見開きになる。
と言う3点からだ。 

 1Dsの操作性は、EOS D6000/2000からの1Dを踏襲し、1Dを使っていた写真家であれば迷う事もない。しかしながら、その操作性に注文がないわけではない。

 一つ目は、やや分かりにくいボタン配列と操作だ。慣れの問題もあるが、MENUやSELECTなどが上のボタンを指すのか下のボタンさすのかが、とっさに分からない。これはボタン表示の問題だろう。撮影中モデルに、逆手で1Dを持ってモニタを見せる時にも、カメラボディ裏側を上から見るため、DISPLAYを押しモニタを付けるつもりでSELECTを押してしまったり、画像を選ぶ時にSELECTを押しながらサブ電子ダイヤルを廻すつもりで、MENUボタンを押してしまったりする。ボタンとその表示をもっと近付け下のボタンと離すか、標示はボタンの横にすべきだろう。

 二つ目は、SELECTすための操作方法。これは、鹿野さんも指摘しているように、指を離して決定すると言うロジックが不自然だからだろう。タグを選ぶのに、MENUEを押し続けながらサブ電子ダイヤルを廻す。タグが選ばれたら、MENUEから指を離す。メニュー項目を選ぶのに、SELECT押し続けながらサブ電子ダイヤルを廻す。メニューが選ばれたら、SELECTからいったん指を離す。もう一度SELECTを押し続けながらメニュー内容を選ぶ。選ばれたらSELECTから指を離して、MENUで戻る。という一連の操作が分かり辛く、あまり合理的なロジックとは思えない。たとえば・・・MENUを一回押したら、サブ電子ダイヤルでタグを選択、SELECTで決定。サブ電子ダイヤルでメニュー項目を選んで、SELECTで決定。サブ電子ダイヤルでメニュー内容を選んで、SELECTで決定とか、D60/30系の操作性のほうが、理にかなっていると思うが、いかがだろう?

 三つ目は、QUALTYやWBの設定方法。例えば使い初めに、こんなミスをしてしまった。メニュー項目、メニュー内容から「色温度5200K」「RAW+JPEG画像記録L」で設定し撮影してOKだと思った。ところがQUALTYでは「JPEG画像記録L」に、WBでは「AWB」になっていたため、RAW画像は記録されず、色温度も異なっていた。同じ間違いをした写真家を他にも知っているので、やはり間違いやすいのではないか。わざわざ別々の二つを設定するのではなく、一箇所で設定ができると、手間も少なく間違いもなくなるのではないだろうか?

 四つ目は、ISO感度標示。やはり使い初めに、前回ISO1250で撮影していたのを忘れて、ISO100のつもりで撮影してしまった。数コマ撮影したところで、モニタで確認し、おかしい事に気がつき事なきを得た。もちろん液晶モニタのINFO標示で標示させたり、カスタム機能で、上面や背面パネルに標示させることもできる。しかし銀塩カメラのように、フィルム種類標示窓がないので、通常は見ただけで気がつことはない。写真家がISOボタンを押し、積極的に確認しない限り、標示パネルに標示されないのだ。ISO感度を自由に変えられるデジタルカメラだからこそ、ISO感度を常時標示させて欲しい。

 五つ目は、登録AFフレームへの切り替。私の場合は、ポートレートで横位置フレームと縦位置フレームで、AFフレームを変更したい。それはピントを合わせる目の位置が横と縦で異なるからだ。撮影中横位置と縦位置は頻繁に変わる。選択したAFフレームで撮影していて、登録AFフレームへはボタン一つで戻れても、すぐにまた選択したAFフレームを使いたい時に、もう一度選択しなければならない。2つのAFフレームを登録でき、登録した2つのAFフレームを、ボタン一つで行ったり来たり切り替えできると便利ではないだろうか。

 いろいろ細かい注文をつけたが、1Dに続けて1Dsを購入し使い続けていると言うところから、結局は気に入っている事はお分かりいただけると思う。

 さて実際に「AERA」の撮影では、1Dとは異なる1Dsの特徴にも気がついた。まず1D以上に、ブレに敏感である。やはり1,100万画素にもなると、ブレが目立つ。今回は部屋の照明も活かしたかったので、1/30秒のシャッターを切った。三脚は必須であろう。
 次に35ミリフルサイズのCMOSのため、従来の一眼レフデジタルカメラに比較して、被写界深度が浅くなっている。これは銀塩でもAPSより35ミリの方が、被写界深度が浅くなる理屈と同じだ。今回の撮影では、テスト撮影の結果F7.1では背景の床の間にピントが来ず、結局F11まで絞り込んだ。ただしこれ以上絞り込むと、回折現象で、逆に甘くなる恐れもあるだろう。
 F11まで絞り込むため、ストロボは2400W1台2灯、1200W1台2灯を使用した。被写界深度が必要な撮影で、ストロボを使う撮影では、機材も増えるだろう。

 撮影レスポンスは、画面中央でフォーカスし、フォーカスロックのまま構図をずらしてレリーズを押し込む、という2秒に1回程度ののシャッターを切っていると、30コマ程切るとbusy状態になってしまう。さすがに1D並と言う訳にはいかない。解像度もブローニー並みなら、撮影テンポもブローニー並みと考えたほうが良さそうだ。まあ通常のテンポであれば、問題ないと言えるだろう。

 データ量は1Dと比較しても大きいので、1GBのマイクロドライブが、すぐにいっぱいになってしまう。ロケでは複数枚のマイクロドライブと共に、空き容量にゆとりのあるノートパソコンが必須となる。私も現在CPU1GB、メモリ768MB、CD-Rドライブ内蔵のノートを使っているが、より高速、大容量メモリ、DVDドライブのノートを物色中だ。

 レンズは16-35mmF2.8L USMを使い、撮影時の画角は20mm程度になった。1Dsの35ミリフルサイズCMOSが活かされた画角になった。

 プロファイルを付けた画像データと共に、色見本のA3伸びのプリントを付けて納品した。編集部でプリントを広げた瞬間、「うわぁーっ」という歓声があがった。着物の肌理、柱や天井の細工のディティールが見事に表現された1Dsの解像度は、35ミリを超えてブローニー並みであると言えるだろう。
 また偽色が出やすい着物にも、全く偽色が出ていない。これはローパスフィルターと共に、キヤノン独自の映像エンジンの優秀さだろう。

 次回の撮影は砂丘で行う。ここでも1Dsの防塵防滴性は、大きな安心感になる。以前砂丘で撮影した時に、私のアナログの1vは、当然全く問題がなかったが、アシスタントのKissは砂が入り込み、修理が必要になった。1vと同等の防塵防滴性がある1Dsは、きっと活躍してくれるだろう。 
 また1v以降のEFレンズは、マウント部にゴムのシーリングがしてある。この防塵防滴対策は、ボディと共に、安心感を与えてくれる大きな材料だ。 

今後の1Dsへの要望は、先の操作性の改善とバッファメモリの増設等による、より快適な撮影レスポンスがある。
 また撮影環境としては、より大容量のマイクロドライブ、モバイルプリンタの登場にも期待したい。

松本明彦