電塾 2008年5月定例勉強会レポート
 
 
「広色域ディスプレイ大集合!」
 
 
第一部 自己紹介&自己主張の時間 参加者全員
 
 

風薫る5月となりました。

今回の勉強会も先月に続き、UDXビル北側9階 株式会社アイ・オー・データ機器東京営業本部内の[I Oスクエアー]で開催されました。

5月の勉強会は毎年のことですが、ゴールデンウィークまっただ中に行われます。今年は3日。若い年齢層の方にとってはゴールデンウィークはまとまって休みが取れるチャンスなので、その時期にわざわざ勉強会に出るという方は「よほどの方」です。その「よほどの方」がどれだけ多いのか?それを思い知ったのが今回の勉強会だったでしょう。

その参加者数、70名以上! たぶん、電塾勉強会(定例)では記録ではないでしょうか?

その一因として勉強会参加費の値下げがあったと思います。今までの5000円から2000円と半額以下になりました。

それと、今回はもう一つ、新世代ディスプレイが一同に並ぶ、という電塾以外では考えられない企画。これが大きかったと推察されます。

写真関係の展示会、イベントは数多いですが、各メーカーごとにブースは分かれていますし、同条件とは言えない環境で展示されています。写真家、カメラマンにとってモニターはカメラの次くらいに重要なものとなっているのに、比較、検討をする「場」が多くありません。

今回の企画はまさにその場だったのです。

さて、この日の午前の部はわたくし、湯浅(電塾運営委員)が担当させていただきました。

「湯浅立志のデジタルフォトとは?」という仰々しいテーマでしたが、何を話しても良いと言うことでしたので、とりあえず去年くらいから考えていた写真界のポジショニングから、現状分析、そして、最後にワークフロー紹介をさせていただきました。早川塾長からは「前半が長すぎ。後半のワークフローをもっと見せた方がよい。」とあとでコメントを頂きましたが、、、実際のところ、自慢出来るようなフローではないので、間が持たないのでは?と危惧して、余分なお話から始めました。

この日の午後や、夜の飲み会でも、その余分なお話の方で盛り上がり、結果的には面白い午前の部になったかと思っています。

午後からは平常通りの進行になります。

まずは自己紹介ですが、、、この日の参加者数は70名以上。とてもではありませんが、全員に自己主張をしていただくと、それだけで勉強会が終わってしまいます。

と言うことで、この日は単純な自己紹介のみ。それでも、一時間程度の時間がかかってしまいます。それでも言い足りない!と言う方も数名いらしたくらい。

写真家、カメラマンは元々は自己主張の強い方が多い職種です。(個人的な感想)

電塾の自己紹介は大勢の前でしゃべれる、数少ない機会の一つだと思います。それが電塾の面白さでもあるでしょう。参加者が多くなるのはうれしいことですが、一人一人のお話を聞く時間がなくなるという、マイナス的な側面も増してきます。そのバランスが難しいなと感じた自己紹介の時間でした。

 
 
第二部の1 株式会社ナナオ
ソフトウェア技術開発部 山口省一
 
 

EIZO ColorEdge CG222W.ColorEdge CG241W

今回の広色域ディスプレイは基本的に、

1:広色域
2:ワイドディスプレイ20インチ以上
3:実売価格10〜20万円
4:キャリプレーション対応

以上の条件を満たし、一般的なフォトグラファーが購入対象としやすいであろうという機種を集めました。

ナナオは言うまでもなく、写真業界では古くから知られている ブランドです。ColorEdgeシリーズはその中でもハードウェア・キャリブレーション可能なモニターとして有名です。ですが、値段が高かった・・

ColorEdge CG222W.ColorEdge CG241Wは、そんな高嶺の花だったColorEdgeシリーズを手ごろな価格で、という機種です。

同じ液晶を使いながら、ColorEdgeシリーズとそうではないモニターは、値段の差があります。その差は何なのか?ColorEdgeの説明はここからです。

ColorEdgeと普通のディスプレイ、違いは一台ずつ調整しているのがColorEdge。 
ユニフォーミティの補正など、工場内でColorEdgeはすべて補正されてから出荷されます。輝度色度は3Dで補正されてます。その手間の差が結果的には値段の差になります。

この出荷前調整があるため、ユーザーの手に渡ったあとの調整(ColorNavigatorによるハードウェア・キャリブレーション)は簡単、短時間ですむのです。

ColorEdgeの最大の売りはここにあるでしょう。

液晶の方式の説明から、ソフトの使いこなしまで、非常に内容の濃いプレゼンでした。

以下はその中の一節。

「CMSの限界に挑戦」 
完璧ではなく妥協の上に成り立っている。
測色センサーの絶対精度。アイワンプロでも業務機に比べると甘い。
解決出来そうなことをやる。 ColorNavigatorでのセンサー補正 目視マッチング補正 紙白測定 手動調整

色の見えは人によって違います。人種によって違うのはもちろんのこと、同じ日本人、同じ会社に勤めている人、隣の机で仕事している人でも、同じに見えていると誰も言えないのです。突き詰めていくと、最後はここに突き当たるのでしょう。

今の限界を知り、やれることをやる、、、という姿勢は非常に参考になりました。

 
 
第2部の2 NECディスプレイソリューションズ株式会社
モニター事業ユニット 開発生産本部 第一開発グループマネージャー 荒井 豊
 
 

NEC MultiSync LCD2690WUXi、MultiSync LCD2490WUXi

NECからは30インチの LCD3090WQXiを含めて3機種が展示されました。

グラフィックス向け90シリーズと言われているのが今回のディスプレイです。末尾のiはIPSパネル使用を表しています。本日のNECのモニターはすべてIPS液晶です。他社のVAパネル採用ディスプレイと比較してどうなのか?今回のディスプレイ大集合の隠れテーマがまさにここだったわけですが。。。

プレゼンはその両方式の違いから。

IPSは視野角特性による色変移の少ない液晶と言われています。 
液晶パネルのカラーシフトは液晶のシャッターの方向により光の抜けが変わるから発生する現象です。そのやり方の違いからIPSは変移が少ないのです。


VAは光の漏れが少ないので黒が黒くなります。応答スピードが速いのもVAの特徴です。ただし、中間調から中間調への色の変化は実はVAの方が遅いと言う説明。当然、メーカー側もそれを補うためにオーバードライブを付けて解消していますが、、、副作用が出やすいと言うこともあるようです。

VAかIPSか?はネットを見回してもいろいろ言われています。

今回の一堂に集めた液晶、見る方向によって色が変わると言っても、それがどれだけなのか?自分の使い方ならどのくらいまでは許容出来るのか?

それをチェックする良い機会となりました。

NECはこの90シリーズを「映像に関わるすべてのプロフェッショナルに・・・」とコピーを付けているように、EIZOのColorEdgeシリーズに勝るとも劣らない出荷前調整をしています。

一例を挙げれば、ユニフォーミティの補正。90シリーズにはすべて搭載され、製造ラインに調整器を入れています。これがご自慢の高精度な機械と言うことで、、、驚く無かれ、画面内に10ミリピッチでの測定が可能で、それを調整しているとのこと。その結果としてNECのモニターがムラは一番少ないと自負しているそうです。それ以外でも 12ビットのLUT採用のガンマ補正なども採用されています。

キャリブレーションですが、もちろん、ハードウェア・キャリブレーション可能なモニターです。ですが、その専用ソフトは同梱されておりません。(同梱モデルも併売中)

実を言うと、僕は2690を先月購入いたしました。安くあげるために同梱モデルを買わずに別売りを買ったのですが、、、出来ればすべて同梱してくれれば、と思いました。

ハードウェア・キャリブレーション(SpectraNavi-J)の実運用ですが、機能などはナナオのColorNavigatorと遜色有りません。ただし、測定調整の時間がかかります。これも、近い将来にソフトのバージョンアップで期待に添えるようになるだろうと言うことでした。

 
 
第3部の1 三菱電機株式会社
デジタルメディア事業部 映像情報計画部長 村田 光司
 
 

RDT261WH

三菱電機からはこのモデルRDT261WHです。

これは最新モデルというわけではありません。2006年11月発売です。2006年にすでにこのクラスを持っていたと言うことで、かなり先を行っていたな、と感想を持ちました。

このモデルはIPS液晶、フルHD対応、AdobeRGB比95%というスペック。今日並んだディスプレイと比べても決して見劣りするものではありません。

この液晶はNECの2690と同じものと推測されます。かたや、ハードウェア・キャリブレーション可能なモニター、かたやソフトウェア・キャリブレーション対応と、性格も値段も違います。

個人的にはフォトグラファーの使うモニターはハードウェア・キャリブレーション可能なモニターをお薦めするのですが、少しでも安く、というご希望を持つ方も多いです。各社のハードウェア・キャリブレーション可能なモニターと同じ液晶を使った、ソフトウェア・キャリブレーション対応モデルを選んで購入の方も多いです。元々素性がいい液晶なので、自分の手間さえ惜しまなければ、値段の安い、このような選択も賢いチョイスだと思われます。

 
さて、このディスプレイですが、ワイド25,5型は国内で売られている60センチのパソコンラックにぴったりだそうです。結構これが隠れた人気だそうで・・・また、写真をやる上でも、 RAW現像時に視点が変化しても色の変化が少ないH―IPSパネルはメリットがあるとアピールしています。たしかに、自分一人で見るから周辺からの色の変化は重視しないとVAパネルを選択しても、長時間、モニターの前に座っているうちにだんだん姿勢が悪くなって、当初の視点よりも下から見ていると言うことがあります。VAパネルの場合、横の変化も然りながら、上下の変化が大きいのです。そのあたりのチェックもお忘れ無く!

さて、後半には商品のプレゼンではなく自己主張になりました。

これが素晴らしかった。僕はこの数年の電塾勉強会で、最高の講演だったと感じました。感動いたしました。

以下はその抜粋・・・

市場動向から見えてくること、、、
画面とプリントの色が合わない>仕方ない
60〜70歳代の男性>主要なユーザー層
オレの色を出せ派 忠実な色再現を期待派の2大派閥
プリントとモニターが合わないのは プリンタがおかしいのではなくモニタがおかしい 
色は合わせることが出来る>それには「良いモニターとツール、そしてコツが必要」
三菱電機は色が合わないことを何とかならないか?と言う層をターゲットとしている
色域を広げて数値を向上させる意義はどこにあるのか?
紙とモニターの表現を近づける方が現実的。

 
 
第3部の2 株式会社アイ・オー・データ機器
開発本部 広報宣伝課 広報課 アライアンス担当 柴田 進
 
 

LCD-MF241X

お次は会場をお貸しいただいているアイ・オー・データのディスプレイです。

まずはラインナップから。現状、アイ・オー・データの液晶では19ワイドが一番の売れ線だそうです。これは主に事務用途だと思われます。グラフィックス向けでプロ向けの液晶は今のところないので、今回のLCD-MF241Xはセミプロ向けと言う位置づけになります。
その分コスト的に安く、アイ・オー・データ機器の直販サイト「アイオープラザ」では、LCD-MF241Xが115000円となっています。

フルHD対応なので、グラフィックス用途のみならず、一般的なテレビとしても使用出来ます。(別途チューナーが必要)なお、新世代のデジタル一眼レフカメラではHDMI端子出力が付いているので、接続さえすればライブビューを先鋭な画像で確認出来ます。実際にNikonD3を接続してライブビュー画像を見てみましたが、HDMIの無い他のカメラとは明らかに次元の違う画像を映し出してくれます。


次に他社に比べて値段が安いので、そのメリットを訴求していただきました。つまりは安いモニターを短期間で買い換えていく提案です。どんなに良いモニターでも所詮は劣化していきます。であれば、半分の値段のモニターを半分の期間(たとえば2,3年で)交換していく・・・というやり方もあって良いのではないかと言うことです。結果的に総合的なコストパフォーマンスが良い環境になります。また、スタッフが何人か居るような小規模事務所を想定した時、全員に高価なハードウェア・キャリブレーション可能なモニターをあてがうわけにも行きません。そんな時の選択肢として、リーズナブルなモニターの存在はありがたいものです。


他にもマルチ入力、 リモコン付きなど、使い勝手が良さそうな機能を搭載しています。更に 保守サービス(オプション)もあり、修理時には代換えサービスあるということで万が一の時には安心出来ますね。


また、同じ液晶を使った廉価モデル、LCD-AD241Xが更にお買い得で59800円です。HDMI端子入力なしで、単機能化した製品ですが、使い方によっては十分でしょう。他にも地デジチューナーを内蔵したモデルもあり、小さい事務所には欲しいと思うところを押さえていると思いました。

 
 
第3部の3 日本サムスン株式会社 電塾塾長 早川
 
 

SyncMaster XL24

サムスンXLシリーズの紹介は早川塾長から。

一昨年の暮れでしたか、LEDバックライト使用のAdobeRGB対応液晶がサムスンから出る、と言うお話を電塾で塾長がされました。その時に出たのが20インチモデルでしたが、ELバックライト、キャリブレーター、フード付属で158000円(20インチ)という当時では衝撃的な値段でした。なにせ、AdobeRGB対応液晶は80万くらいするものしか無かった時です。

本日持ち込まれたのは、それの24インチモデルです。

早川塾長の説明では24インチになって性能はアップしたと言うことです。視野角が広くなった点とAdobeRGB比123%という色再現。
RGB3色のLEDバックライトを使用しているため、分光特性が優れているそうで、広色域を達成出来るとのことです。一般的な液晶が使っている、冷陰極管では発光体の特性は変えられません。これは蛍光灯を想像してみれば分かることです。製造時に発色は決まってしまうので、液晶の製造メーカーが作ってくれない限り、広色域は達成出来ないのです。

特徴としては LEDバックライト使用のため特に赤側の再現域が広いと言うことでした。

ハードウェア・キャリブレーション可能でそのソフトも付属、遮光フード付属、キャリブレーター付属というオールインワンです。

さて、LEDバックライト使用液晶は現在のところ、サムスンXLシリーズのみなので、その評価がまだまだ定まっていないと塾長は言います。しかしながら安定して長寿命のLEDバックライトを今後は使用するディスプレイは増えてくるのではないでしょうか?


最後に本日の総括として、塾長から、、、

ここ数年で、ハードウェア・キャリブレーション可能、広色域再現のモニターが増えました。まさに「花盛り」と言っても良いでしょう。その値段も20万以下で買えると言うことで、普通のカメラマン、写真愛好家の選択肢に入ってきました。何年も前から「AdobeRGBを再現出来るモニターを作って欲しい」といろいろなメーカーに言ってきたことは、今日のような一堂に集められたモニターを見ると、電塾をやってきた甲斐があったな、と感慨深い。

 
 
今月の一枚
 
 

午前の僕のセッションでの一コマ

僕が詰まっているところに助け船を出してくれました。たくましい二の腕が頼りになる事務局長です。

文: 湯浅立志