ペンタックスDA★50-135mmF2.8ED [IF]SDM
 
 

 これはずっと気になっているレンズだった。小さく、明るく、設計に無理をしないズーム域なので、かなり高性能を保てる。モデル、物撮り、ではほとんどの仕事をカバーし、風景の切り取りにも使えるんではないかと。
 ペンタックスって以前にレンズ開発のロードマップを発表していたので、発表当初からお借りしてみたいとお願いしていた念願がやっとかなった。実際に手にしてみると、やはり小さく取り回しが楽。ついでに言うとペンタックスとしては初めての超音波モーターを搭載している。


最初から寄り道

なぜ、あたしがペンタックス?と聞かれる事が多い。実は私は一眼レフの歴史は古くペンタックス時代は結構長かったのだ。カメラマンになる前小学校の頃は親父のペトリを借りて使っていた。あのシャッターがボディ全面に斜めに着いているヤツ。「ボーエンだよ望遠。コーカクだよ広角」(あの声はひょっこりひょうたん島の熊倉一雄さん…ちなみに大橋巨泉がMEの宣伝にでてました…)のコマーシャルにわくわくしていて、兄からお下がりのSPIIをもらったのが中学の頃。高校生の頃に自分でSLを追加し、浪人生の頃にMXを購入。それまで標準レンズしか持っていなかったのだが、40mmのペタンコレンズ(パンケーキといわれていたっけ)に45〜120の重くてでかいズームレンズ、28ミリの広角の三本を追加した。当時は毎日モノクロフィルム一本消費し、コンタクトシートを焼き、4〜5枚を六つ切りにプリントする事を自分に義務づけていた。大学生になって、LX。その頃にはレンズもだいぶ増えて7〜8本持っていたように思う。
 写真を生業にするようになってから、会社で支給されるニコンFEとFMも同時に使用するようになったが、メインは6×7、4×5。35mmはほとんどスナップにしか使用しないので、LXとMXの組み合わせは仕事を始めてからも、かなり長く使用してた。そうそう、最初に買った中判カメラはマミヤのC330だったが、その次ぎに購入したのが6ラ7で勿論ペンタックスだった。何しろ、風景で使いたかったのだが、物撮りにもずっとこれを使用していた。パック交換が出来ないため、ポラロイドも切りにくく、おまけにシンクロスピードが1/30という厳しさだったが、結構長く使用した気がする。
 フリーになってから、あまりのショックでキヤノンのペリクルミラーを搭載したEOS-RTを購入。おかくの舌を出した写真を初めて撮影する事ができた。その後、オートフォーカスの便利さにEOS-5を追加。次第にCanon製のカメラとレンズが増殖しだした。
 Nikon D1 が出るまでは、それで通していた。何しろ35ミリタイプのカメラを使用して商品や建築物を撮影する事は皆無に近く、Nikon D1 以降に35mmタイプ一眼レフをコマーシャルに使いだしたのだ。
 というわけであたしの初期の35mmと6ラ7カメラはずっとペンタックスだったので、大きな抵抗はないわけだ。

DA★50-135mmF2.8ED [IF]SDM

 前置きが長くなった。で、実際に使ってみてどうかというと、期待通りというところと、もう少しってところが同居していた。コンパクトな仕上がりや写りは申し分がなく、グラデーションもきれい。ズーム域も丁度75mmから200mm。モデル撮影で使いやすい画角で、ほとんどこれ一本で済んでしまう。明るいところでは合焦も問題なく、良いレンズだと思った。ただ、物撮りに使用する時に、もうちょっと寄れると良いなと思った。(当然でかくなるんだろうが…)また、暗いところでは合焦がスムースに行かないのはセンサかモーターのせいだろう。こいつは是非進化して欲しいところだ。
 仕上がりがやや硬め(RAW展開ソフトウェアの癖も多分にありそうで、これは好きな人間と嫌いな人間とに別れるだろう…ちなみに今回は汎用ソフトウェアのCamera RAWを使用)なことも気になるところだ。(もちろんメリハリがあるという言い方もできるわけなので、好みの差ではあるが…)

 レンズフードに面白いしかけがしてありペンタックスユーザーなら皆知っているだろうがPLフィルターを付けた時にフードの下側一部分を外し、直接指で回せるようになっている、使ってみると結構幸せな仕組みだ。

 ボディに施された防滴性能に関してはまた後で触れるが、レンズのマウント側にもOリングが仕込んでありさらに防水性を高めている。レンズ交換をしなければマウント部からの水のしみ込みはほとんど考えられない。

 屋外などの光量が十分にあるところでは、合焦も、ダイナミックレンジも、グラデーションもまったく文句ない軽くて小さい事を加味して、実に良いレンズだといえる。が、暗い場所での使い勝手…ちょっと迷う…はせっかく明るいレンズなのだから、もう少し向上させたい。また、感度3200の画質ももう少し向上すると使える幅が広がるように思える。(これはレンズの話ではないが)

 もう一つ感じた事は…これは全体を通して感じた事だが…特別に性能がすごい部分があるわけではないが、どの焦点距離、絞り値でも過不足ない解像、収差をしている事。ピーキーな高性能ではなく、一件平凡と見えるが何処を取っても落ち込んだところが見えない…これは設計のポリシーなのだろうが、非常に好ましく見えた。特に常用するレンズの特性としては正解のような気がする。

このレンズもご多分に漏れずF5.6~8、11あたりが非常によろしい。でズーミングした時の各焦点ではどのような歪曲収差をしているかというと、これが実に見事だ。無理のない焦点距離範囲で作られているせいか、何処をとってもバランスがよろしい。5063mmあたりで少々苦労しているが文句を付けるレベルではない。

各F値毎の解像と色収差(中央と周辺部)50mm相当

50mm側の中央部各F値ごとの表示。非常に優秀でバランスがいい。F22はさすがに回析現象の成果やや甘い。

50mm側の左端周辺部各F値ごとの表示F5.6から11あたりまでが優秀。ま、これだけの端っこを何処まで解像して欲しいのかというと実際はあまりないけど…マクロレンズじゃないしね。

各F値毎の解像と色収差(中央と周辺部)75mm相当

75mm側の中央部各F値ごとの表示。やはり、8から11がベストのようだ。しかし、それ以外の焦点距離でも大崩しないのがこのレンズの持ち味のようだ。

75mm側の左端周辺部各F値ごとの表示。周辺部でも中央部と同じような印象を受ける。

各F値毎の解像と色収差(中央と周辺部)135mm相当

135mm側の中央部各F値ごとの表示。ここも8から11がベストだが、回析が始まるのが早い印象を受ける。

135mm側の左端周辺部各F値ごとの表示。色収差の出方がハデになる。望遠側だとでやすいのかしら?

F5.6での各ズーム域の変化(中央部と周辺部)

F5.6で50mmから135mmまでの各ズーム域の中央部。基本的にF5.6であればどのズーム域でも問題ないといえる。135mmが、少々甘く感じるのは撮影時の問題かも知れない。

F5.6で50mmから135mmまでの各ズーム域の周辺部(左上)。周辺部でもいい成績だがやはり135mmが気になる。

ピクセルチャート

お決まりのピクセルチャート:驚くほどの解像感を見せている。センサーの出来もさる事ながら、レンズが持つ解像感も高いのだろう。さすがに赤で囲った1ピクセル部分は解像しきれないのは当然だがそのすぐ上の1.3ピクセルのチャートは楽々と解像している。ただ、逆にあり得ない形を出しやすそうなのがちょっと気になる。モアレの発生率は結構高いかも知れない。しかし、これだけ解像しながら、グラデーションがきれいなのは驚きだ。このチャートは63mmで撮影した。


勿論レンズの良さはチャートだけでは計れない。チャートは冷静に現象や素性を判断する材料になるが、写真は写ってなんぼの世界だ。5枚の実写画像を見て欲しい。素晴らしいグラデーションとメリハリを感じる事ができるだろう。

ついでにペタンコ三兄弟

 お目当てのレンズは、確かに良かったのだが、それ以外に久しぶりにペンタックスを使用して気に入った部分を少々。
 同時にお借りした、ペタンコ三兄弟のうちDA 21mmF3.2AL Limited 、DA40mmF2.8 Limitedの2本のレンズには実にはまってしまった。(DA70mmF2.4Limited はついズームレンズにその焦点距離が含まれていたので、やめてしまった。今になれば、借りておくんだったと思う。)
 いずれもF2.43.7と明るく、しかし40mmなどの装着時の出っ張りはたったの1.5センチと短い。もともと小さいペンタックスのボディに付けてもちょっと厚めのマウントキャップといったところだ。これなら、大きめのポケットや、カメラバッグにほおり込んでおく時にもじゃまにならない。(最近のレンズはみなでかくてレンズを付けたままカメラバッグに入れにくいのだ。だからちょっと使いたい時に、いったんレンズを付け直し、また外す、という作業が常にまとわりつく。その意味では、このレンズは、薄ければ薄いほど良い事になる。写りも十分、どころか、かなり満足のいくもの。もともと、MXにペタンコ40mmを付けて持ち歩いていたあたしとしては、是非、K10Dとセットで普段持ちのカメラにしたいところだ。
 このサイズでは、写りなんかあまり気にしていなかったのだが、相変わらず切れ良いのでちょっと紹介する。

DA 21mmF3.2AL Limited

DA 21mmF3.2AL Limitedの中心部。半段絞ったところから気持ちがいい写りをする。

DA 21mmF3.2AL Limitedの周辺。少々の色収差があるが良いレベルだと感じる。ここでもやはり、半段は絞ったほうがよさそう。

DA40mmF2.8 Limited

DA40mmF2.8 Limitedの中心部。F5.6から素晴らしい解像感だ。

DA40mmF2.8 Limited周辺も同じくF5.6からが素晴らしい。ただし色収差がほとんどなく、とても端正。

ついでにDA40mmF2.8 Limitedでのチャート。こちらは結構かりかりきている。あたし的には物凄くお気に入り。この大きさで超音波モーター駆動だったらほんとに嬉しいのに…。

さらについでにプログラムのお話…など

 話はいきなり変わるが、LXの防滴性は当時としてはとてつもなく頑強なものだった。今でもあの防滴製を再現しようとしても難しいだろうと言われる。何しろ、ボディを組み上げた後に、隙間にシリコンを手作業で注入し、乾燥させるまで二日は時間がかかるというものだったらしい。実はK10 Dもその流れを汲み、かなり高度な防滴性能を実現している。

 ペンタックスは以前からハイパープログラムという面白い機構を持っていた。プログラムオートなのだが、その状態で前電子ダイアルを回すと、絞り優先プログラムに、後電子ダイアルを使ってシャッタースピードを変えると、シャッター優先の撮影に即座に変更できる(もちろんその時に選択しているプログラムラインに従って適正露出は維持する)もので、当時はZ-1Pに搭載されていた。(昔ちょっとだけ使った事がある)これは条件がどんどん変化する撮影では、実にありがたい機能で、後述のプログラムラインの設定と組み合わせて使用すると、ほとんどのスナップ撮影で、時にはシャッター優先あるいは絞り優先として自在に変更できる。一度スナップの実戦でじっくり使ってみたい機能。私的にはこれほど使いやすいプログラムはないと感じているのだが…。

 しかもプログラム曲線には高速シャッター優先、被写界深度優先、標準、MTF優先といういくつかのプログラムが用意され、一日、その状態が続くのなら、プログラム曲線を選ぶだけで、気持ちよく撮影できる。フルオートならぬ、至れり尽くせりのセミオートは、プロが使っても、おいしくいただける。条件が決っているスナップなどでは実に使い勝手が良いだろう。例えば動体が多ければハイスピード優先、入り組んだ集合写真では深度優先プログラムを選べばいいだけだ。こんな機能はぜひ他社も見習って欲しいと思った。(MTF優先というのはできるだけそのレンズのおいしい絞り値近くで撮影しようという、ちょっと面白い考え。仕事では使わないだろうが、個人的な作品では使ってみたい気がした)