SpyderCUBE
 
 

SpyderCUBEのレポートをする前に、画像調整の順序について考えてみたいと思います。よく見かける行為で、いきなり露出補正から画像調整を行う方を見かけますが、これは間違いで、あまり語られることがないのですが実は以下のような順番があります。

1.ホワイトバランスを適切に設定する。
2.ハイライトを設定する。
3.中間調を設定する。
4.シャドウを設定する。
5.全体のチューニング・特別な意図があれば、更に調整。

全ての調整に先んじて、ホワイトバランスを合わせる。これが一番肝心な事で、現像処理の奥義と言ってもいいでしょう。ホワイトバランスがとれていない画像では露出の調整は不可能だからです。

※なお、このページは、Adobe Photoshop Lightroom IIを対象にしたSpyderCUBEの活用法なので、Lightroom IIの数値を読めるように長辺1000ピクセルで作製しました。ちょっとデータが重いですので、ご注意ください。ホワイトバランスが外れた状態で撮影された画像。ブルーチャンネルがオーバーしているように見えている。

露出を落として石膏像の「ほほ」のあたりの飽和が無くなるように露出を調整。

ホワイトバランスを取り直すと、ハイライト側に余裕をもったかなり暗い画像になっているのが[ヒストグラム]から読み取れる。

その後ホワイトバランスが合った状態で同一露光(ISO200・1/100秒・F9.0)で撮影した画像。
もちろん、適正なな状態で撮影されているのが一目瞭然だ。

以上のことから露光量を決定するためには、ホワイトバランスが適切に設定されていることが重要なのだ、ということが分かるはずです。
それ故、撮影時に完璧にホワイトバランスを合わせておくことが理想ですが、いつもそれができるとは限りません。
それでも、大まかなであってもホワイトバランスが合っていると、後の作業は格段に楽になるし
画像劣化も少ない(たとえRAWデータであっても)仕上がりを期待できるのです。

具体的には、屋外で撮影しているのなら、太陽光に固定しておくのは一つの良い方法です。
RAWで撮影しているのなら複数の屋内、屋外などに渡って撮影する場合に、オートホワイトバランスを使用するのも一つの手です。
その上で、調整時にホワイトバランスがおかしなものだけをピックアップして調整すればいいだけのことです。
Jpegから補正するよりはずっと程度の良い補正ができるでしょう。
しかしこの場合、あとからホワイトバランスを合わせる時にシーンによってグレイ値に逆にばらつきが出てしまう可能性もあります。
そういったときにSpyderCUBEをシーンが変わるたびに写し込んでおく、といった使い方が想定できます。
太陽光マークを使用して屋外で撮影している場合は、2時間おきにSpyderCUBEを写し込んでおくと、色温度変化にも上手く対応できるでしょう。

SpyderCUBEを写し込む場所はどこでもいいというわけではありません。理想は画面の中央、あるいは主要被写体の前です。
画面の隅っこ、あるいは端では意味がありません。
何しろ画面の隅っこというのはレンズの色収差が大きく出ており、更にビネット効果で暗くなっている場合が多いのです。
中央部分と周辺部の色調が異なるレンズも存在します。

(太陽光の元でレフ板を使用しない場合に限り、遙かな太陽までの距離が一変化による光量変化を最小限に抑えるので
問題は無くなるのだが、レフ板を入れた瞬間に意味が無くなってしまうし、ビネットを考えれば、画面中央がやはり正解になるのです。)

SpyderCUBEの特徴は
純度の高いニュートラルグレイを持つこと
金属球によるハイエストライと(キャッチライト)と光源の数、方向を類推
光源側の白でハイライト
シャドウ側の白で光源の色温度変化
光源側のグレイでホワイトバランス(グレイバランス)
シャドウ側のグレイと光源側のグレイで光のコントラスト
下部の黒と円い穴はぎりぎりのシャドウを設定するため
と以上の事柄を設定できることです。これら全てを満足させるためには画面中央がベストなのです。

また、特殊な樹脂を適切に配合することで、汚れに非常に強くなっています。
多少の汚れは拭くだけでとれ、すさまじい汚れの場合は中性洗剤で洗えます。
通常のグレイボード類がシルク印刷で作られており、スクラッチや汚れに弱いことを考えれば、常に携行するホワイトバランス用品としては良くできているのではないでしょうか?

一番下においてあるのが、株式会社セコニック製のExposure Profile Target IIで、筆者がもっとも信頼しているグレイボードです。
その上にマクベスチャート、更にSpyderCUBE、mt fotoのメンディングテープで、いずれもすばらしい数値です。
ほとんど誤差は0.5%以内に収まっているようです。
ということはこの写真内におかれたグレイはどれも信用に値するといっていいでしょう。

光源側におくと、グレイの値が高くなり、シャドウ側におくとグレイの値が低くなってしまい、デジタルフォトで最も重要な「ぎりぎりのハイライト」を設定できない。
また、左右の端では通常のライティングの距離ではコントラスト比を正しく求めることもできない。
下側におかれた場合は、画面の隅っこであればレンズの色収差やビネット、被写体の天板の色や反射の影響を受けやすくなってしまうのでのもっと望ましくない。
やはり画面中央、あるいは主要被写体の前がもっとも正確な情報を取ることができる場所だろう。

Adobe Photoshop Lightroom IIのホワイトバランスの取り方

[スポイトツール]を持ってグレイ部分の中央をクリックする。
これだけでホワイトバランスが設定できてしまいます。
通常適正範囲に画像がはいっていれば、50〜60程度の数値を示すはずです。

ホワイトバランス設定時の[ツールバー]の詳細は以下の通り

自動消去:一度ホワイトバランスを取るとスポイトが消えます。チェックを外すと消えないので、あちこちのホワイトバランスを確認したいときに便利です。
ルーペを表示:ホワイトバランスを取ろうとしている部分のピクセルを拡大して表示、また、RGB値を100%の単位で表示します。




スケール:ホワイトバランスを取るピクセルの範囲を指定します。一番小さくて5ピクセルの四方、一番大きいと17×17で289ピクセルを表示します。

ホワイトバランスが整ったら、露光量を整える事にります。

ライトルームのデフォルトは
黒レベルが+5
明るさが+50
コントラストが+25
[トーンカーブ]がコントラスト(中)
となっています。(プロファイルは、Adobe Standaerd)
Lightroom IIの調整に慣れてきたらば、この初期設定から初めてもかまいませんが、最初は一度設定を全てキャンセルすることをおすすめします。メリハリの強い仕上がり感を求めるために、初期状態ではシャドウがつぶれ、コントラストが高めに設定されてしまうからです。

被写体のコントラストを見極めるには初期設定をキャンセルする。
黒レベル補正を0に(通常は5)
明るさを0(通常は+50)
コントラストを0(通常は+25)
[トーンカーブ]をリニア(通常は中)
全体にぬるく、重い写真になりました(これは人間の目に見える見え方の差です)が、ヒストグラムをみると
ハイライトに多く余裕を持って、シャドウもぎりぎりで切れていないのが確認できます。
Adobe Photoshop Lightroom IIの初期設定がキャンセルされ、RAWデータが記録した初期の状態を表示しているのです。
この状態が適切であるとはいえませんが、どのように撮影されていたのか、を知るにはもっとも良い設定でしょう。
作例のように画面の中に真っ白いもの、明るい中間調、中間調、暗い中間調、真っ黒いものが満遍なく存在していれば、
[ヒストグラム]は端から端まで表示され、シャドウもハイライトも飽和していないことが見て取れます。

※これ以降、数値情報はグリーンチャンネルの情報を平均値として表示します)

メインライト側のグレイは41.1%シャドウ側のグレイが21.5%となっています。
100:52のコントラスト比を持っており、見た目にも画像自体のコントラストは強いようです。

次に白面とグレイ面のハイライトとシャドウのコントラストを確認すると83.8%と29.5%となっています。
コントラスト比は100:35です。明るい側のコントラスト比はより高くなっています。
白い石膏像にしては少々暗めで影がきついライティングだといえます。

実はこの作例は押さえの光を全く設定していないのです。
ここで数値の差が大きければ、レフ板、あるいは押さえのライトの光源を調整するべきでしょう。
目で見て違和感を感じない程度なら問題無いのですが、違和感を感じる場合、これを画像処理で修正するのは至難の業となります。
メインライトのみでライティングしているライティング比を覚えておくと今後活用できるでしょう。

とりあえず、この状態から画像を整えて見ましょう。
ヒストグラムはハイライトのシャドウも十分ですが、全体にシャドウ側によっています。
元々のライティングのせいなのですが、これは中間ガンマを上げる事で整える事ができます。

明るさを40に設定すると、ヒストグラムは理想的なバランスになりました。ハイライトとシャドウに対して同じくらいの余裕を持っています。この「明るさ」のスライダーは見た目のガンマをコントロールしていると思っていいでしょう。

白のライト側が93.4でシャドウ側が38.1となり、コントラスト比は100:40に下がりました。
中間ガンマが上がったおかげです。白の位置が93〜96ポイントにある場合がハイライトの基準値だといえます。
これより明るいもの、点光源や金属の反射部分はキャッチライトになり、100となるでしょう。

補助光効果を30に設定し、石膏像のシャドウ部分をもちあげてコントラストを押さえてみましょう。
屋外などでレフ板が使えない場合に応用できます。中間調より暗い部分が明るくなり、より見やすい画像になりました。

93.4:38.1=100:40.7のコントラスト比で、更にコントラストが弱まりました。
補助光効果はもっと上げる事もできますが、30〜40以上あげると、シャドウ側のノイズが強調されることもあるのでやりすぎは禁物です。

次にシャドウ側を整えて、メリハリをつけます。SpyderCUBEのもっとも黒くなるべき点(SpyderCUBEは絶対黒という表現をしています。円い穴の中が黒く塗られているので、確かに簡単に持ち歩けるもっとも暗い部分だといえます)が12.4で、そこからほんの少し明るくなるべき点が24.6という明るさになってしまいました。シャドウ側を持ち上げているのですから当然です。次はこのポイントを見ながら、黒レベルを調整していきましょう。

黒レベルを3に設定すると、ポイントは6.7になりました。画面にも締まりが出てきます。
マミヤのカメラのシャドウ部には黒つぶれ表示が出ていますが、このくらいはつぶれていた方が画面にメリハリが出ます。

被写体のコントラストが高い場合はこのように現像の設定を変更する事で素直な再現にすることができます。(元々、高コントラスト表現を狙っている場合はこの限りではありません)被写体のコントラストが高いため、Lightroom II側でコントラストをあげたり、[トーンカーブ]を調整する必要は少ないでしょう。ただ、仕上げの個人差は当然あるので、更にハイライト、シャドウを調整したり、コントラストを変更してもかまいません。

それでももっとシャドウ部を描写したい、あるいは柔らかい再現にしたい場合は、撮影時にレフ板や押さえの光を追加し、光を回すことになります。ライティングには一切手を触れないで、レフ板だけを追加してみました。

これまでの撮影と全く同一の露光量でレフ板を追加してコントラストを押さえた画像のLightroom II初期設定画面です。
メインライトだけの写真とはかなり感じが異なり、石膏像の影の部分の描写は柔らかく、黒いカメラのシャドウ側もトーンを感じます。

前回と同様に全てをリニアに変更してみました。[ヒストグラム]はハイライトもシャドウもかなり余裕を残しています。
石膏像の全てのトーン、黒いカメラのシャドウ側のトーンもしっかり描写されていますが、コントラストに不足を感じるようです。

メイン光側のグレイは41.7%、シャドウ側のグレイは27.8.%、コントラスト比は100:66.6で前回に比較してかなりコントラストが下がっています。白は84.1% シャドウ側は44.7%で、こちらはコントラストが100:53.1です。レフ板を入れる前はグレイが100:52,白が100:35でしたので、かなりコントラストが押さえられているのが分かります。

メイン光側の明るい側を理想的な95%近くに設定します。今回は白い石膏像のトーンカーブを生かしたいので、ちょっと抑え気味に設定ししてあります。前回同様明るさのスライダを40まであげて見ました。画面全体は満遍なく目に見えるようになりましたが、全体に眠い感じがあります。白のポイントは93.6で、まだ明るくする余裕があります。

次にコントラストを21ポイントまで上げて、バランス画面全体の締まりを調整します。
コントラストが上がりながら、白のポイントが94.5まで上がりました。
もう少し強めてもいいのですが、石膏像の明るい部分のトーンカーブを描写するにはこの程度で抑えておいた方がよさそうです。

SpyderCUBEの黒点を参照すると、もっとも黒い点が7.3で、そこからほんの少し黒くあるべきポイントが16.7です。
もう少しシャドウを閉めてもいいと判断できます。

絶対黒点が0になるまで黒をしめると、この画像の場合はシャドウ側がつぶれすぎてしまいます。

絶対黒が1.6程度になるようにスライダを調整してみました。今回は3ポイントです。

絶対黒の隣の黒い面はは13.8%。
これだ、という数値があるわけではありませんが、10%前後が、トーンとして描写されるもっとも黒い部分だと考えていいでしょう。

金属球でつくられた部分に写し込まれた光源はキャッチライトになり、100%になっています。

これで一応基準に入った端正な露光量とコントラストの設定が終わったことになります。
この後は更に好み、あるいは目的に応じて微調整していけばいいでしょう。

SpyderCUBEを使うこつは、
1 正しくレンズに向けて構図の中央付近にセットすること。
2 ホワイトバランスをメインライト側のグレイでセットする。
3 白点を95%付近にセットする。
4 コントラストを、ライト側とシャドウ側で読み取ること(通常100:40〜100:60あたりに落ち着くようです)
5 絶対黒を0〜3%の範囲で、その周辺は10%前後でになるように設定する

これが基本だといってもいいでしょう。
もちろん、これは絶対にそうだ、という値ではありませんので好みに合わせてアレンジしていただいて結構です。
方法論の一つとして、撮影前にSpyderCUBEで標準値を求めれば、その後の撮影をかなりのレベルで安定化させることもできるようです。特に複数のカメラマンが異なる場所で一つの仕事をするときなどは威力を発揮するでしょう。

※余談ですが、最近気がついたホワイトバランスの設定方法…光源が自然光(あるいはタングステン光)の場合でグレイチャートや、基準になる白などが画面内に含まれていないときの対応法
とにかく色かぶり補正をゼロにした上で色温度スライダを移動させてバランスを取る。自然光はほとんどマゼンターグリーンの偏差がない。その後必要に応じて色かぶりを補正。場合によってはもう一度色温度を補正した方がいい場合がある。とにかく、いったん色香ぶり補正を0に設定して色温度を調整する。これが決め手だ。

レポート:鹿野 宏 2009.5.6