手作りカメラバッグ「YAKUSCAN」を検証
 
 
 
 

YAKUSCANの全貌

 
 

すでに製造、販売が中止されているエプソン製のスキャナーの部品をばらして再構成、小さめの弁当箱サイズの箱の中に入れて「デジタルカメラバッグ」に仕上げた物が、この「ヤクスキャン」です。屋久島に在住の塚田さんという方(元グラフィックデイナー、現在趣味で写真を撮影されているそうです)が作られています。私はまだお会いしたことがないのですが、電塾の金田氏とは古いおつきあいだそうです。

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ハッセルブラッドのバックに装着出来るように作られており、現在はこの形がメインだそうです。(希望があればRBタイプも考えているとか…)テストしたのはバッテリーが内蔵されたコマーシャルモデル2機種。通常販売されているタイプとの違いはバッテリー内蔵以外はほとんど差がないようです。

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電塾会員もしげしげと見ています。このスキャナータイプ、今では全く見られなくなってしまいましたが、筆者もデジタルカメラの黎明期にはメインで使用していました。当時は1600万画素のスキャナータイプでも驚かれた物です。フェーズ、パイオニア、ライカ、AGFA と何社からか発売されましたが現在生き残っているのはベターライト社くらいでしょう。

販売用の無塗装駆動モデル(バッテリーが内蔵されていないタイプ)は現在の販売価格が15万円ととても安価でした。しかも、その解像力は最大5億700億画素というとんでもない物です。(このモデルは残念ですが現在売り切れだそうです。次のモデルができ上がるまで、少々時間がかかりそうですね。欲しい方は作者に連絡を取って見てください。)

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YAKUSCANの駆動部です。スキャナーですので、スキャン方向に対してステップ幅を可変可能です。これを変更することにより取り込み解像度を指定できます。

2400dpiで取り込んだ場合に5億7000万画素あるのですが、これを解像するレンズが存在していません(少なくとも写真用のレンズでは)ので撮影できない事はありませんがほとんど無意味です。

1200dpi の解像度でスキャニングの場合約3分で取り込むことができ、現実的です。それでも取り込める画像は1億4320万画素もあります。

600dpiの場合でも約3500万画素です。こちらは1分程度でスキャンできますので、思ったより多くの被写体に対応できるようです。

 

 
 

500ピクセルチャート

 
 

まずは電塾チャートを使用した解像力テストです。現実に5億7000万画素を解像しようとするとこのセンサーのサイズではミリ300本以上の解像力を持つレンズを使わないと解像出来ません。ハッセルのレンズのなかでも評価の高い80mm や100mm、そしてマクロレンズの最高峰と言われた120mmが期待できます。が、これらといえども最大で150本程度です。

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実際に100mm レンズで撮影した物がこれです。ピクセルに対してレンズが解像していないため、1pixel部分は評価の対象にはなりませんがワンショットと異なり、素直なデータを取り込んでいることが分かります。レンズの「ぼけ」の分柔らかなのでそれなりに「正解」だともいえます。


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ちなみに、これが撮影時の状況です。10メートルちょと離れて小さく撮影した画像の部分を100%で比較しています。実際のデータは14039×10200と言うとんでもない大きさのデータです。


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私がこれまで撮影した電塾チャートの中で素晴らしい出来のチャートがH4DII50MS でした。もちろん最初からマッチングされているのでこの性能です。(eVolution 86 Hも素晴らしい出来でしたが、借り物でしたので次に挙げる1000ピクセルチャートを撮影できていないので比較は出来ませんでした。ただし、eVolution 86 HとH4DII50MSは良い勝負をしていましたので同様に考えても良いと思います。)

 

 
 

1000ピクセルチャート

 

 
 

このチャートをベストの状態(500ピクセル指定)での比較画像を撮影することがスタジオの広さの関係で難しかったので2倍の1000pixelで比較してみることにしました。

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APOdigitar120Nを取り付けて撮影。YAKUSCANは1000pixelでもまだレンズの解像能力が追いついていないようでした。このピクセルピッチに追いついてこれるレンズってどのような物があるのでしょうね?

これらの結果で5億7千万画素のテストはあまり意味が無いと判断し、検証から外してしまいましたが、撮影できないわけではありません。むしろグラデーション部分は凄いことになるかもしれませんね。レンズの解像力が足りないため、ややぼけてはいますが、非常に綺麗にとりこめているので、ほとんどの被写体に対して問題なく撮影できると感じました。市販のスキャナーを使ってこれだけの写真を撮れることに驚いてしまいます。

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試しにPhotoshopでスマートシャープをかけてみると驚くほどエッジがしっかりしています。画像処理を前提にすれば逆に扱いやすいデータだとも言えます。見事!の一言です。


ハッセルブラッドのレンズのほとんどは撮影時に最高解像度を確保しようとすると、F5.6からF8がベストでそれ以外は劣化が激しいようです。(予想通り開放はどのレンズも難しかった…)そのためこのカメラで最高性能を引き出したい場合は明るすぎても暗すぎてもダメです。フラットベッドスキャナーには「シャッタースピード」という観念が無いので露出は感度調整ボリュームとNDフィルターによるコントロールが必須になります。明るい戸外であれば NDフィルターで光量を落とす。曇りや光量が少ない場所では特製の感度調整ボリュームを使用することである程度対応できます。それ以上に暗すぎる、あるいは明るすぎる状況での撮影は良い結果を期待できません。


また、外光で撮影する際には近赤外線カットフィルターを使用しなければなりません。これは天体撮影用途以外のデジタルカメラであればほとんどの物に装着されていますが、YAKUSCANは基本はスキャナーですので装着されていません。塚田氏からのコメントでは、冷陰極蛍光管であれば問題ないが、外光で撮影する場合は必須との御注意をいただいていましたが、どうやら蛍光灯撮影時も必要なようです。通常の外光ほどの変化はありませんが紫、赤からオレンジの色相分離、黒インクに影響を及ぼしています。出来ればフィルターは付けっぱなしの方が良さそうです。実は蛍光灯という物、結構近赤外線を出しているんですね。タングステン光の場合はなおさらです。

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同様にH4DII50MSとの比較です。こちらはシャープネスをかけなくてもこれだけの仕上がりです。120ミリマクロレンズはH4DII50MSのレンズの中でも特に出来が良く、レンズの解像性能が十分にイメージセンサにマッチしているのでしょう。実はこのレンズをYAKUSCANに取り付けてテストしたいと思っていたのですが、最近のレンズは自動絞り、ボディ駆動なので、同一条件の検証ができないのです。(最もこのレンズでさえYAKUSCANの解像力に追いついているとは絶対に思えません…)

 
 

実写テスト

 
 

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風で揺れるのを嫌うため、高速に撮影できる600dpi(これでも6960×5052で、3500万画素です)を選択しました。ローパスフィルターが不要でおまけに演算が不要なため高周波成分が見事に再現されています。この画像は200%に補完補正しても十分に使えるでしょう。

Photoshopでレベル6の圧縮をかけています。画像をクリックすると元データが別ウィンドで表示されます。曇天の日はちょっと感度が足りなく感じます。

 

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近赤外線と紫外線をカットするフィルターを外してみました。赤外写真になってしまいますね。これはこれで面白いと思いますが、通常は使わないでしょう。Photoshopでレベル6の圧縮をかけており、画像をクリックすると元データが別ウィンドで表示されます。

 

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テーブルトップ1200dpi

私の自宅でテーブルトップを撮影して見ました。ピントが合っている部分の瓶のラベル、素晴らしい再現力です。ほれぼれしてしまいますね。この画像は1200dpiで撮影しており、このCMSには組み込めませんでしたので、こちらから表示してください。

 

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人物。

これは照明に質の良い「太陽光ライト」を使用。300dpiで約1分の撮影。後ろの人物がわざと動いています。モデルになっていただいた塾生の方は「このくらいなら我慢できる」と言っていました。

 

 
 

ダイナミックレンジ

 

 
 

デジタルカメラとしてはダイナミックレンジが気になります。ある範囲はそこそこにトーンが繋がるのですがある部分からハイライトは飽和するし、シャドウは完璧につぶれてしまように感じました。印刷物などをスキャンする場合には都合が良いカーブでしょう。

しかし、コダック社の kodak Photographic Step Tabet No2 を撮影してみると 私の感覚でよりは遙かに広いレンジを持っており、に21段のステップ全てが記録されいました。(シャドウ部は見やすいようにトーンカーブで持ち上げております)1ステップが半絞りと言うことですので10.5絞り(現実には素通しの白を入れてあるので11絞り)分を再現できていることになります。 十分なレンジですが、シャドウ側をここまで出すためのトーンカーブを書くのは上級者向けと言えます。現実には8絞り程度と考えた方が良いでしょう。

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YAKUSCANの画像です。色かぶりもなく、素晴らしい出来です。

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D7000の画像を比較用に掲載しました。ワンショットにしては素晴らしいのですがシャドウ部に色転びが見受けられます。

 
 

ドライバ

 

 
 

基本はスキャナーです。エプソンの物をそのまま使っているため、デジタルカメラ用ソフトウエアーとしての作り込みはありません。ISO感度とシャッタースピードに関しては撮影者からのアクティブなアクセスが不可能なのが一番辛いところです。特にシャッタースピードは内部でコントロールされており、こちらが指定することが出来ません。使いこなしには工夫が必要でしょう。撮影時にドライバの[ヒストグラム]にかかっている制限を外して撮影していましたが、それは「無補正」を選択することで同じ結果になることを知りました。ただ、この状態でも何らかのカーブがかかっているようです。

問題はこのドライバをいつまでエプソンがサポートしてくれるか…不安でしたが、どうやらエプソンさんはかなり古い機種でも最新のOSに対応させる努力をしてくれているようですので安心して良いのでしょう。ただしエプソンのサポートはないと思ってください。

 
 

その他と「まとめ」

 

 
 

作者の意図は「気軽に超解像度のデジタルカメラを楽しむ」というコンセプトで作っていらっしゃるのだと理解しています。(手元にハッセルブラッドがあったから、ハッセル仕様にしたというお話しもお伺いしました)使ってみると、ハッセルの旧タイプのレンズでは絞り値のみを変更することが面倒ですし、解像力もこのセンサーに対しては不足しています。(写らないというわけではありませんが、本来の力を存分に発揮できないのですね)4×5などに取り付けて、開放から切れの良い引き延ばしレンズや、シュナイダーのデジタル専用レンズなどを使ったほうが良い結果を期待できそうです。

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また、「楽しむ」と言う事であればソフトフォーカスレンズを付けるとびっくりするくらいグラデーションが綺麗で柔らかく、巨大な画像を手に入れることが可能です。私たちもあまり期待せずに「試しに」撮ってみようということで玉内氏が持ち込んだVERITOというレンズを付けて見たところ、画像が表示された瞬間、スタッフから「おお!」という声が上がりました。チャートをソフトフォーカスで撮ってどうなるという物ではありませんがこの柔らかく、巨大な画像はツボにはまるととんでもない作品を生み出すかもしれません。元データはこちらから開いてください。

中を拝見するとよくまあ、ここまで部品をチューニングして作った物だと頭が下がります。一人の人間が大げさな機械を使わずにここまで出来ると言う事を再認識しました。まさしく「手作りからくり」の集合体です。

 

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基本的に水平に置かれた状態でスキャンするように設計されている物をカメラの後ろに垂直にセットしているからでしょうか?時々カタカタとセンサーが動くことがあるようです。普通の撮影では気がつかないかもしれませんが、このように直線が波打って記録されることもありました。最も普通に見てては気がつかないでしょう。


ドライバやレンズの問題、露光量の制限(光線の状態が柔らかな曇りの日の撮影では素晴らしい結果が出るでしょう。)、長時間露光になってしまうこと、十分に安定した三脚を使用しなければならないこと、 精密なピント合わせが非常に大変なことなどを含め、「とてもじゃじゃ馬な」カメラバッグです。…しかもコンピュータに直結した状態でしか使えません。けして「お気楽なデジタルカメラ」ではありませんが、これらの制限を理解した上で自分なりに使いこなそうとするのであればとても安い投資で1億4000万画素というものすごい解像力を持ったカメラを手に入れることが可能です。この場合は細かいことをいわずに、思い切り楽しんでみる事が正解です。十分な実力を発揮するはずです。(風のある日の風景は難しいですが…)思わぬ傑作が撮れるかもしれません。


とはいえ、コマーシャルで使用する、あるいは被写体を忠実に再現しようと考えるなら、それなりの覚悟が必要です。特性を十分に理解し、ケースバイケースでの工夫も必要ですので、デジタルと写真技術の知識が要求されます。しかし、その上で撮影に成功した画像はこのカメラの素性を知らぬ人にとっては驚異のデジタルデータに映るでしょう。YAKUSCANのための撮影スタジオを構築し、維持できるのなら、現実味のあるお話しです。


ご興味のある方はこちら。


制作者の日記はこちら


2011.07.24 レポート電塾運営委員 鹿野 宏

検証に参加したメンバー 玉内氏、山田氏、阿部氏、金田氏、等々。

 
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