ColorChecker Passport カメラマン必携の一枚
 
 

X-Rite社から発売された「ColorChecker Passport」は Adobe Photoshop Lightroomに最適化されたカメラプロファイル作製ツールです。このツールの良さと使用方法をレポートしたいと思います。

 
 

ColorChecker Passportのカメラプロファイルとは?

 

 
 

私は(電塾全体も含めて)これまでカメラプロファイルの運用にはかなりの慎重な…というより反対の立場をとってきました。その理由として第1にプロファイルの作製するための撮影が非常に難しいこと。第2にあまりに色彩の位置を追い込んでしまうためにグラデーションに破綻をきたしたり、色相の反転現象を起こしてしまう可能性も高かったこと。第3にその運用も規制が多く、プロファイルを作製時の照明器具を使用しないとプロファイル自体がずれてしまうことも上げられます。これらの理由からカメラプロファイルを運用できる条件を満たすためには、かなり厳格に管理された環境を維持し、ライティングも殆ど変更しないというような使い方をしなければならなかったため、細心の注意を持ってすれば、使用は可能だが、「通常の撮影に応用するにはあまりに条件が厳しすぎ、自由度が無く実用的とは判断できない」と言うのが結論でした。

しかし、どうやらColorChecker Passportが作製するカメラプロファイルは前述のカメラプロファイルと大きく異なるようです。「カラーマネージメント」上で謳われるカメラプロファイルではありません。「光源の特性を使用するイメージセンサに対して整える」ことを目的とし、色彩を合致させる事はしても、あくまで素の方向性だけを近づけ、諧調グラデーションを崩さない方向性を持っているようです。まさにAdobe Photoshop Lightroom 3 やCamera RAWに搭載されている「カメラプロファイル」を作ろうとしているのです。

 

../_images/_DSC9682.jpgまた、カメラプロファイルを作らないにしても、ハイライト飛びやシャドウの潰れをチェックできたり、ニューラルグレイを写し込んだり、グレイ位置を任意に変更できる機能を持っており、何よりも「デジタルフォト」を撮影する人間たるものとして、信頼できるチャートを一つは持っておくべきだとかねてより考えていましたが、まさにそれに値するチャートだと思います。

 

 
 

秀逸なパッケージング

 

 
 

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持ち運びしやすいパッケージ

 

黒いプラスチックケースによってパッケージングされることによってColorChecker ターゲットを指紋や油汚れの付着、外部の衝撃や紫外線から守ってくれます。これによって「持ち歩く」場合の考えられる事故から高い確率で大事なチャートを保護できるようになりました。実は筆者はここが一番のポイントだと感じています。

ちょうつがい構造を採用し角度調節が可能なため、撮影時にターゲットを適切な位置と角度にセットできるのも魅力の一つです。これまでチャートをセットする際に、何かしらの「背当て」が必要だったのです。

 

 
 

廉価な価格

 

 
 

これまでマクベスチャートはミニサイズも8×10サイズでも¥18.000ほどの値段がしていた(高いですよね!)が、ホワイトバランスターゲットにクラッシックターゲット、クリエイティブ補正ターゲットの3枚のチャートが含まれ、持ち歩きやすいようにパッケージングされ、カメラプロファイルを作製するソフトウェアも同梱されてオープンプライスではあるが、約¥12.800という購入しやすい価格帯になっています。


 

 
 

ColorChecker ホワイトバランス ターゲット

 

 
 

../_images/_DSC9681.jpg分光的にニュートラルなホワイトバランスのターゲットは、撮影時とRAW現像アプリケーションでホワイトバランスをとるために使用します。通常の18%グレーよりかなり明るいが、この明度でホワイトバランスを取ることは正解です。なぜなら、人間の目は明るい側には敏感だからです。かと言っても真っ白ではあまりに明るい側だけでバランスをととってしまい、中間調がはずれやすくなるためです。

 

 
 

 

クラッシックターゲット

 

 
 

このチャートを使用してカメラプロファイルを作製します。

カラーパッチのそれぞれの意味合いは以下のとおりです。

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茶色明暗:肌色の明るい部分と影の部分を表す         ブルー・グリーン:風景に於ける青空と緑を表す

 

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RGBを表す                        CMYを表す

 

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8色の混合色とグレーチャート

 

8色の混合色:再現したい二次色及び自然界に存在する色を表す。

ニュートラルグレイ:6ステップで表示。ちなみに18%グレーは左(明るい方)から4つ目。

固有色を再現したい商品撮影などでは左から2番目か3番目のグレイを使用する。


 

 
 

使える!ColorChecker クリエイティブ補正ターゲット

 

 
 

プロファイルの作製にあたっての微調整は存在しません。しかし、ホワイトバランスに偏差を与えることで多くのシーンに対応しようとしています。一番上が8色のスペクトルパッチで全色相を確保しています。

 

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 固有色を再現するべき商品写真であれば当然ニュートラルグレイでホワイトバランスを取ります。


 

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人物であれば上から2段目のパッチを使用します。ニュートラルから、暖色方向への4段階のステップで偏向させます。「やり過ぎない」範囲で好みの肌色に近づけることが可能です。


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 風景の場合は上から3段目のパッチを使用します。中央がニュートラルで、左をクリックするとブルーグリーンを強調し、右側は暖色に仕上げます。この機能の最大の魅力は常に同量の偏差を与えることが出来、仕上がり感を一定に保つことが出来る事です。単純だが素晴らしい考え方だと思います。

 

 

一番下がハイライトとシャドウのクリップを確認するためのパッチ。明るい側か、くらい側でふた駒以上が同じ数字になってしまったのならば、それは露出オーバーかアンダーになってしまったという事です。通常はハイライト側をクリップさせないように注意しますが、より具体的に確認できます。Adobe Photoshop Lightroom であればもっとも明るいパッチが95%程度になるように抑えて露出を決定します。この4つのパッチがLightroom II上で3〜5%の明度差で表示されるように撮影すれば適正露出だと言えるのです。

 
 

賞味期限は2年間

 

 
 

チャートという物は、かなり厳格に管理すれば5年程度は持つ物だが、ColorChecker Passportの場合は「常に携帯して、いつも使用するモノ」という性格を鑑みて2年間という賞味期限を設定しているようです。2年間を過ぎなくとも目に見えて汚れてしまったり、作製したプロファイルに不振な挙動が見られるようになったならば買い換えるべきでしょう。

 

 
 

カメラプロファイルの作り方

 

 
 

 ColorChecker Passport は単にチャートとして持っても十分に価値のある物ですが、「照明とカメラ固有の組み合わせ」ごとのプロファイルを作製できることは非常に大きな意味を持つのです。カメラメーカーが用意している固有のプロファイルや Lightroom IIなどに用意されているプロファイルは確かに出来が良いのですが、どこそこの「体育館の水銀灯」と「自分が持っているデジタルカメラ」の組み合わせのプロファイルを用意してはくれないのです。

 

同じように自分のスタジオでいつも同じライティングの撮影をしているなら、そのスタジオとカメラ、レンズ固有のカメラプロファイルを作製でき、それを長期間安定させることが可能になるのです。

 

最初にも書きましたが、ColorChecker Passportのプロファイルの素晴らしさはあまり細かい色精度にこだわらないこと。目標の色彩を持ちつつも、非常に柔らかな明暗グラデーションのつながり、色彩変化のつながり、彩度変化のつながりを重視しています。そのため、「ある範囲に入った色彩の安定感を保ち」ながらも「破綻のない自然なグラデーション」を維持するので、多少光源が変化しても使いやすいのです。

 

無理をしていなく、しかも運用が簡単というのが売りです。どう簡単かというと

1.あらかじめプラグインをAdobe Photoshop Lightroom にインストールしておきます。

 

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 2.ColorChecker Passportをサンプリングしたい光源で、正面から撮影する。 

 

3.習得したRAWデータをAdobe Photoshop Lightroomで読み込みます。

 

../_images/02.png

 4.読み込んだデータを書き出すと、プラグイン画面が表示されます。

 

5.撮影に使用した光源の名前を書き込むだけです。これまではここでチャートのある場所をドライバに教える作業をする必要があったのですが、もうそれも不要です。

 

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 6.プロファイルを書き出します。

 

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 7.Adobe Photoshop Lightroom を再起動すると、カメラキャリブレーションの「プロファイル」のプルダウンメニューに作成されたプロファイルが登録されています。

 

※撮影上の注意点をいくつか上げておきます。

 

適正露光(ハイライトもシャドウもクリップさせない)

ムラのない光(影が入ってはいけません)

大きく写しすぎない。(画面一杯に撮影すると周辺部は色収差やビネットの影響をうけます)

小さすぎてもだめ(ひと升に40ピクセル以上はないと演算できます)

正対させる(当然ですが、真正面で撮影します)

このプロファイルは作製したカメラ固有のプロファイルとなり、おなじニコン系でも型番が同一でないと表示されません。(たとえばD700で作製したプロファイルは、D3で撮影したデータの時には非表示になります。ただ、どう行った光源で撮影されたかについては記録されないのでファイル名を付ける必要があります)

 
 

カメラプロファイルがもたらす恩恵

 

 
 

 

このカメラプロファイルはLightroom などでカメラプロファイルが用意されていないメーカーのカメラや蛍光灯、水銀灯光源などの劣悪な光源環境の写真に威力を発揮します。(太陽光やストロボ光などでは大きな差は見あたりませんでした)

 

特に白色蛍光灯にはグリーンの輝線は強いものの、赤やオレンジといった光の波長は殆ど含まれていません。そのため、これを光源とすると暖色部分が平坦になり、全体にグリーンかぶりの傾向が残るのです。

 

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作例はD700を使用してストロボと蛍光灯で取り分けてみた物。明らかに白色蛍光灯を光源とした物(右)はいくらホワイトバランスが取られていても全体に眠く、暖色がさえない。左のストロボ光源の物はきちんとした暖色が再現されています。

 

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同じ白色蛍光灯を光源とした写真に作製したカメラプロファイルを当てると、ストロボで撮影したようなバランスの良い発色になる。

 

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左はペンタックスK-7。これも白色蛍光灯で撮影したが、作製したプロファイルを適用しているため、D700と殆ど同じ仕上がり感になっている。同時に異なるカメラを使用する仕事などでも活用できるだろう。

X-Rite デュアルイルミナント DNG プロファイル

 

二種類の光源に対応したプロファイルを作製するデュアルプロファイルも面白い考え方です。二種類の光源のどちらで撮影してもそこそこの結果を出してくれます。屋外と室内を行き来するようなロケでは全てを同じプロファイルで処理をしてホワイトバランスのみを取り直す、という使い方が想定できるでしょう。Adobe Photoshop Lightroom IIに搭載されたAdobe Standaerdというプロファイルも昼光色とタングステン光源に対する[カラーテーブル]を持っているのです。(どおりで使いやすいと思っていました)

殆どのカメラメーカーも同様の方向性を持っているようです。ですので、太陽光やストロボ光でカメラプロファイルを作製しても殆ど変化がありません。大きく変化するのは白色蛍光灯や水銀灯と言った劣悪な光源の場合です。

現在の日本のような蛍光灯が主流である場合、あるいはオフィスを蛍光灯と外光とストロボ光で撮影する場合は蛍光灯+太陽光のようなプロファイルを作っておくと万能プロファイルとして使用出来るでしょう。

 

 
 


 

 
 


 
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